小川研究室の研究テーマ紹介


最終更新日:2005年(平成17年)10月12日



研究分野のキーワード

低次元多電子系
低次元多励起子系
低次元電子-格子系
動的応答/非線形応答
光誘起相転移
緩和散逸ダイナミクス
量子光学/非線形光学
量子-古典クロスオーバー
ミクロ-マクロクロスオーバー
量子力学基礎論と観測問題



概要

現在の小川研究室では物性物理学を中心に研究テーマの選定を行っています。しかし、研究対象を狭い意味の凝縮系物理学に限定しているわけではありません。量子物理学全体に目を配りながら、様々な分野に興味を持って研究を進めていく計画です。ただし、高エネルギー領域と原子核領域は研究していません。

 従って関連する(既存)分野名を挙げると、低次元量子流体、低次元多励起子系、非平衡力学系、非線形光学、量子光学、量子力学の観測問題など、いくつもの分野にまたがることになっています。しかしむしろ、物理学内部の細かい分野の境界を気にせずに研究し、それによって新しい研究分野を拓くことにつながれば一番よいと考えています。
 「複雑・多様性」の中から普遍的法則を見いだす方向と、基本的規則から多様な現象や性質を導く(予測する)方向とをバランス良く連結した研究を行おうと思っています。

 そのような気概と意欲を持った大学院生を歓迎します。このような方針で研究を行っているので、具体的な研究対象は常に変化しています。小川と学生とがディスカッションしていて「それは面白そうだ」ということになれば、そのまま研究対象になりうるからです。とは言ってももちろん「研究室の傾向」は有りますので、それを紹介しましょう。最近の研究テーマを以下に挙げますので参考にしてください。


研究テーマの中心

 凝縮系(いわゆる「物質」)は,多数の構成要素(原子や分子など)が相互作用し合いながら構成されています。小川研究室では,要素還元論的立場から,このような巨視的集合体の性質や特徴的振る舞いを,量子力学と統計力学に基づく解析的および計算物理的手法を用いて研究しています。特に,凝縮系における動的非線形応答・時空間発展現象,量子多体系の励起状態が関与する諸現象を,微視的立場と現象論的立場の双方から理解し予測することを目標としています。すなわち,「非線形性」と「時空間変化」とが関連する物性物理学が関心の中心です。基底状態のみならず(熱エネルギーよりも遙かに高いエネルギーの)励起状態をも考察の対象としているため,量子ダイナミクスや緩和・散逸の問題にも関わることになります。
 見方を変えて言うと,フェルミオン場(電子系,電子-正孔系など)とボゾン場(光子場,フォノン場,励起子系,熱浴など)とが結合・相互作用している系を対象とし,これら2つの量子統計性の異なる系の間の競合・協調,コヒーレンス・デコヒーレンスなどが巨視的効果として現れる量子現象に着目します。
 
 量子ダイナミクスの関係する例としては、非線形光学応答理論、相転移ダイナミクスの理論、量子核生成の理論、多励起子系や高密度電子-正孔系の理論、少数励起子系のボゾン理論などが挙げられます。緩和・散逸の関係する例としては、励起状態の緩和と量子デコヒーレンスの関連、非マルコフ緩和の問題、ミクロ-マクロクロスオーバー(量子-古典クロスオーバー)などです。
 とすると必然的に、動的応答や非線形応答の問題に関係することになります。このような応答問題と量子揺らぎとの関連にも注目しています。


最近の研究テーマの例
 




少数励起子系のボゾン理論と動的非線形応答

 半導体のバンド端近傍の光学的性質を支配している素励起は、伝導帯の電子と価電子帯の正孔とがクーロン引力により結合した「励起子」と呼ばれる複合準粒子である。1励起子問題は古くから研究され、近年では低次元系での励起子の性質も詳しく解明されている。他方、同じ周波数領域での非線形光学応答(特に3次光学的非線形性)を理解するためには、複数(最小限2つ)の励起子が同時に存在する量子状態の詳細と励起子間相互作用とを明らかにする必要がある。励起子間相互作用の解明と励起子の非線形性の起源の解明は30年来の理論的問題であるが、まだ完全理解の域には達していない。
 少数励起子系は、励起子を構成する電子と正孔のフェルミ粒子としての性質(パウリ排他原理など)と、束縛状態としての励起子のボーズ粒子としての性質との両方を兼ね備える点が特徴である。逆にこの2面性が理論的研究を難しくしている。最近、3次の非線形性に限れば、励起子を擬ボーズ粒子として取り扱う描像で実験を定性的に理解することができることが明らかになった。その際、励起子の擬ボーズ統計性と構成要素のフェルミ統計性との関連が重要であることが漠然とわかっているだけで、理論的立場からの理解は得られていない。この分野の研究は、ある特定の実験結果を説明するだけでなく、電子-正孔系の光励起ダイナミクスの普遍的特性の解明および光素子等の物質設計の指導原理を得る鍵としても重要である。少数励起子系の光学応答の非線形性の起源を、ボゾン化法に基づいて明らかにすることが研究の最終目的である。多粒子(相互作用するフェルミ粒子)系をボーズ粒子で記述する方法は、その低エネルギー励起を調べるためには非常に有効であり、しかも物理的意味がつかみやすい。そこで、従来のボゾン化法を批判的に再検討し、新しいボゾン化法を提案すること、その方法によって励起子非線形性の起源を明らかにすること、少数フェルミ粒子集合体として取り扱う理論に対してのボゾン化法の長所短所を明らかにすることが、研究の具体的な目的である。
 励起子は、構成要素(電子と正孔)のフェルミ統計性(パウリ排他原理など)と、対としてのボーズ統計性との両方を兼ね備えている。このような準粒子が複数個存在する状態を、原子核理論でのボゾン化法を援用・改良することによって、物理的に見通しの良いボーズ粒子形式で書き表すことが可能か否かに決着をつける。従来は、曖昧な近似や不明瞭な仮定の下でのボゾン化法のみが用いられてきたが、本研究によって、少数励起子系の励起状態が厳密な形で記述され、非線形性の起源が物理的に明らかになる。また、全角運動量によって区別された励起子状態のボゾン化とボーズ粒子間相互作用の全角運動量依存性も併せて明らかになり、円偏光を用いた実験との対応も明瞭になる。これも特色ある点である。また、少数励起子系を、近似の意味がはっきりした新しいボゾン化法で解析する点は独創的であり、新しい非線形光学材料の開拓にもつながる研究テーマでもある。本研究は基礎理学的興味だけでなく、少数励起子系が非線形光学物質として利用可能かどうかを明らかにする工学的応用の立場からも重要であり、よってその解明が急がれる。

光誘起相転移の量子ダイナミクス

光照射・加熱などの局所的刺激によって物質系全体の結晶構造・電子構造・磁気秩序等が劇的に変化する非平衡(動的)相転移現象の機構と時空間量子ダイナミクスとを微視的・現象論的両側面から理論的に解明する。特に、多重安定系の光誘起型非平衡相転移現象を中心に、(a) 光照射によって物質中に短距離秩序が形成される核生成初期過程の理解、(b) 局所的微視的秩序が結晶全体に拡がった大局的巨視的秩序に時間的・空間的に発展していく動態の解明、(c) 非平衡相転移過程での協同発光現象の予測・解析から物質系の揺らぎと光子場の量子揺らぎとの相互相関の理解までを目指す。非平衡相転移しうる物質の設計指針や物質の存在様式の人為的操作法についての基本原理も探る。